『質の良い骨を作る栄養と運動』

「アスリートも一般人も、カラダのしくみは同じ」

 

ヒトの体をつくる上で、主軸となる一番大事なパーツが「骨」です。スポーツ選手も、一般人も、私たちの体はみんな同じ骨の数、同じ形でできていますし、いくつになっても骨の代謝は続いていきますので、競技や年齢が違っても、骨のためにやるべきこと”“やってはいけないことは同じです。

 私たちは「動く・食べる・寝る」この3つだけを繰り返して、今の体がつくられています。だからこそ、丈夫な骨や元気な体をつくるには、どんな材料、どんな刺激(運動)が必要なのかというイメージを持つことはとても大切です。私が体づくりや栄養の話をする時、たとえ相手がアスリートであろうと、小学生であろうと、必ず骨の大切さや成り立ちから伝えているのには、そんな理由があるからです。

 

 

「せっかくの「骨貯金」を使わないように」

 私たちの体は、食べ物から摂取したカルシウム(経口カルシウム)が足りない時は、体に蓄えられているカルシウム(経骨カルシウム)を借りてきて補おうとします。借りてくる場所は、主に腰椎、頸椎、大腿骨といった大きな骨から。これはお年寄りになって骨が曲がったり骨折をしやすかったりする箇所と重なっています。糖分の摂りすぎや日常のストレスなども、体内で多くのカルシウムを消費する一因に。「いかに経骨カルシウムに頼らない食生活をするか」が、質のよい骨を保つカギになります。

 質のよい骨とは、「しなやかさ」と「強度」と「密度」がバランスよく保たれている骨のことです。しなやかで骨密度の高い、強い骨を作るには、コラーゲンとカルシウムが必要です。また体に吸収されにくいカルシウムは、ビタミンDとビタミンK2を含む食品も一緒に摂るのがおすすめです。日頃からプレーンヨーグルト、手羽元、牛すじ、皮付きの魚、チーズ類、納豆などを食べるよう意識してみてください。運動や食べ物の力を上手に借りてしっかりとした骨をつくり、良好な状態をしっかりキープしておきましょう。

 

 

「日頃の行動や姿勢を意識するだけで、骨は鍛えられる」

 骨は、重力に逆らうタテ方向の刺激(負荷)を与えることで、骨密度が高まります。宇宙飛行士やシンクロナイズドスイミングの選手に、骨密度が低くなる傾向がみられるのには、こうした負荷が大きく関係していると言われています。

 骨を強くするためにできることは、普段の生活の中にもたくさんあります。例えば、エスカレーターやエレベーターに頼らず、階段を使うこともその1つ。「ベタ足」を意識して上り下りをすると、かかとから足裏全体で自分の体重を支える動きになり、負荷がかかって骨によい刺激を与えることができます。

 また、電車の中でも座っているより立っている時の方が骨に負荷がかかるため、背筋を伸ばして姿勢良く立って乗ったり、椅子に座る時は骨盤が立つように浅く腰掛け、おへそから下に少し力を入れ、足裏をしっかりと床につけましょう。正しい位置に骨があるだけで、骨の質も変えていくことができます。

 

 

「増え続ける骨粗しょう症患者」

 骨粗しょう症は、骨の構造がスカスカになり、ちょっとしたことで骨折しやすくなる病気です。また、立ち上がったときや重いものを持ったときに背中や腰が痛んだり、歳をとって背中が曲がってきたりするのも、骨粗しょう症の症状のひとつです。

 日本人の骨粗しょう症患者数は、2015年時点で約1,300万人と言われており、高齢社会の進む中、患者数は今後も増加の一途をたどると予測されています。

 骨が弱くなっていないか、また骨粗しょう症の兆候がないかを簡単にチェックする方法としては、

[1] 身長低下チェック(身長が縮んでいないか)

[2] 姿勢チェック(壁に背をつけた時に頭が壁につくか)

[3] エストチェック(肋骨と骨盤との間に指2本が入るか)

などがありますので、ぜひ今の状態を確認してみてください。

 

 

「年代別の注意点」

 丈夫な骨が維持できていないと、軽い転倒から骨折し思わぬ大けがに繋がる可能性もあります。骨粗しょう症で骨折しやすい部位は大腿骨頸部、椎体(背骨)、橈骨、上腕骨など。特に高齢者(80歳以上の男性、65歳以上の女性)は、足のつけ根の大腿骨頸部骨折を起こすと、そのまま要介護状態になるリスクが高くなります。さらに死亡のリスクが高まることも指摘されており、大腿骨頸部骨折後、約20%、つまり5人に1人は1年以内に死亡しているという報告もあります。

 

 また、子育てで忙しくしている母親世代(3040代の女性)はつい自分の健康をおろそかにしがちなところがありますが、女性の骨粗しょう症の発生率は男性の約3倍。特に閉経後は、女性ホルモン(エストロゲン)の減少により骨の代謝バランスが崩れ、骨粗しょう症リスクが急激に高まるため注意が必要です。お子さんだけでなく自分の骨づくりについても、今のうちから関心を持ってほしいと思います。そして、高校生以上の学生さんは学校給食がなくなるため、カルシウムの摂取量が急に減ってしまう傾向がありますので、ご家庭の献立もカルシウムを意識したものに見直してみるのも良いでしょう。

 

 

 

「栄養以外にも、適度な「運動」と「日光浴」が丈夫な骨をつくる」

 使わない筋肉が衰えるように、骨も負担をかけなければ強くなっていきません。骨を強くするには骨に圧迫力を加えることが一番。しかし、決して激しい運動をする必要はなく、散歩や軽いジョギングでも充分に効果が得られます。

 

 そしてもう一つ大切なのが、太陽に当たること。日光を浴びると体内でビタミンDが生成され、骨を強くしたり、風邪をひきにくくなったりなどの良い効果がたくさんあります。しかし近年は美白ブームによる紫外線カットや屋外に出ない生活スタイルが普及し、日光に当たる時間は減少傾向。ビタミンDは、肌の6平方センチメートルを3時間当てると、1日に必要な量が生成されると言われていますから、どこか体の一部でもよいので太陽に当たることをおすすめします。歳をとってから慌てるのではなく、今のうちから骨粗しょう症のリスクを軽減しておきましょう。